神様まんがが面白い

ここ半年くらいで読み始めたまんがの中で神様を題材にしたいくつかが面白いなと思った。で、そのいくつかの感想を。

まず「かみあり」。現在二巻まで出ていて、もうすぐ三巻が出る。


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楽天ブックス 一巻を読ん時点での感想なんだけど: 現代日本での神様のとらえられ方を題材に、ほのぼのとした「かみあり」生活をおくる中学生たちを描く。「かみあり」の国のことなので、ふつーに神様たちが現れて、人々とふつーに関わりあう。 主人公・幸子は関西からの転校生してきた。その土地で育ったのではないわけで、いきなりそんな環境に放り込まれたんだからさあ大変——ということはなく。何事も見たまま聞いたままに受け入れる彼女は、無邪気に接し、自然と神様の日常にまきこまれてしまう。何の問題もない。 そう本人はいいのだ。だが、彼女の日常を介し神様の日常にまきこまれてしまう少女が一人。エミはかみありの国で育った人であり、そうであるから神様との距離感に気を遣う(畏れることを知っている)。それゆえに、ひどくふりまわされてしまう。そんなドタバタ。あくまでドタバタでシリアスではなく、全体にほんにゃりどのかな空気が流れる。 この物語世界での神様の扱いというのは見方によっては雑でいいかげん。後付けサクサクで効能がくっつけられたり、あっちこっちから神様を引っぱってきちゃったりと自在。 エミはもともと神様たちとは距離をとらなきゃいけないと思っていた。だが、幸子といっしょに行動することでまきこまれるドタバタの中で、とまどいつつも認識をどんどん新たにしていく。(まあ、さらにそんな中で、どうも生来のものらしい、まきこまれ気質みたないものを発揮してしまうんだが。)むかしむかしそのむかし、神様との距離感というのがどうだったのかは知らないのだが、でもみんながみんな神様がどうであるかを知っていたとも思えず、そうしてみると、もしかしてこんなふうだったのかもなあと思えてくる。八百万ってすばらしい。 ところで、一巻の最後のほうでアガレスがちょっと変だったのがもう一つよくわからなかった。なので、ちょっと調べてみた。本編にも出てくるけどアガレスは元神様で、キリスト教に貶められたのだそうだ。ざっと検索しただけでは正確なところはくよわからなかったが「人間に言語を伝えた」のが直接的な理由であるといった記述も見られる。本編でのオチは、日本の神様の扱いはいいかげんだよねーって感じなんだが、それとあわせ、「私日本に来て性質が変わった口」というセリフをさらにあわせると、この国にきてある種のなぐさめをえたのかもしれない。

次。「いなり、こんこん、恋いろは。」これは現在二巻まで出ている。


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楽天ブックス とある女子中学生がふとしたなりいきで神様からその力の一部をもらってしまったために…… という話。 二巻を読んでの感想: 一巻に引き続きのいきおいが保たれていて面白い。多少、登場人物の関係性がごちゃっとしているところもあるが、まずまず問題ないだろう。むしろこのごちゃっとしたところがうまく機能しているように思える。登場人物みんなが好き勝手に動きまわりすぎていて、誰にもどうにもできない感があって、そこがいい。どうなるのかさっぱり読めない。といって物語が破綻しているというわけでもなくて、そこもいい。 この読めない感じの半分くらいは、力をもらってしまった主人公が、なかなかに残念な感じで力を使ってしまうからだろう。あの年頃の世界の狭さとか視野の狭さは振り返って自覚するような種類のものだと思うのだけど、そんな感じの中で見えているものだけを見て力を使っちゃったりする。一つ良くなれば一つ悪くなるみたいな連鎖を起こしてしまってあわくってみたりとか。 最初は小さな穴からこの世界を覗いているようだったが、一巻、二巻と続く間にもどんどんと視野が広がっていっている。もちろん物語の幅も広く、そして深みを増していると思う。ただしそれはインフレ的なものではなくて、世界観のディテールを書き込んでいくような感じなんだと思う。 物語には大きなスジがあるようで、力をもらった主人公にも、力をあたえてしまった神様にもいろいろなことが起きてきている。今後どうなっていくのかとても楽しみ。

次に「ぎんぎつね」。現在四巻まで出ていて、もうすぐ五巻が出る。(実はまだ二巻あたりまでしか読んでいない。)


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楽天ブックス この話の舞台は上の二作よりは現実に近い設定になっていて、はちゃめちゃなところはあんまりない。 神様そのものではなくて、その「つかい」神使がそちら側での登場人物となり、こちら側には「見える」人とそうでない人がいる。主人公は神社の家の娘で、その彼女が「見える」人、そうでない人といろんな関りをもっていくという話。 神使の性格に難があったりして、主人公の彼女のほうがふりまわされているようだったり、実はそうでもなかったりする。特別な事件が起きるわけでもなく、でも、何事も起きないというわけでもなく、そういう、ごく普通の日常の中にとけこむ神使との関わりというのが読みどころの一つ。あの世この世がそこでゆるく交わる様子がふんわりと描かれている、その雰囲気がとてもよい感じだと思う。 神社やお祭(というより神事かな)に行ってみたくなったりする。

最後に、これはまんがじゃないのだけど「うちのメイドは不定形」というライトノベル。一巻のみ。続き出ないかなあ、と期待しているのだが、もう一年たってしまっているのだな。


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楽天ブックス クトゥルフ神話をモチーフにしているが、ニャル子さんのような、その上に乗っかるような形では今のところない…… と思う。クトゥルフは中高生くらいのときにちらっと読んでそれっきりなのではっきりしたことは言えないが。まあ、少なくともクトゥルフがわからなくてもちゃんと読める。 ニャル子さんのほうは、クトゥルフ神話の上に、実際はこうだったっていう設定の上書きをほどこして遊んでいるのでパロディ色がやや強めだが、この本では、RPGなんかでよくあるような感じで神話から神様を借りてきているだけというのに近い。 物語はとある男子高校生のもとに、実父から不定形の何者かが送られてくるところから話が始まる。それがクトゥルフ神話に出てくる奉仕生物(でよかったかな?)のショゴスであった。メイドさんと化してのドタバタを経て、主人公の同級生にまぎれていた魔術士に見つかってしまう。その魔術士が勘違い→暴走し、その結果として、主人公の肉体がとことん破壊されてしまうも、ショゴスの一部との同化という裏技で切り抜ける。そんな話。 キャラをいちいち丁寧に描き出しているのがこの話を支えているのではないかと思う。 キャラ作りとしては、朴念仁でにぶちんの男子高校生、時代がかっていて「天然」かつ有能最強のメイドさん、秘めたる過去を持ちドジッ娘の同級生、信頼関係にある他の同級生、といった感じで手堅いが、ディティールがきちんとしていることで立体感があった。やはり協役にどれだけ手を入れるかなのだなあ、と。そういうところで物語としてのリアリティを深められるのではないか。 続きも期待できそうな構成なんだけど、続き出ないかなあ。