ほうかごのロケッティア

ほうかごのロケッティア (ガガガ文庫)ほうかごのロケッティア[rakuten]という書名の通り、ロケットなんです。はやぶさにひかれた人。おすすめです。

話のスジは主人公および彼のまわりの学校生活と、ロケット造りの二つのパートで進行します。前者はクラス内のヒエラルキーとか、その間での人員の移動とか、さぐり合いとか。ポジションチェンジやポジションあらそいは目まぐるしく、あっという間に情勢が変わる。話に聞いたり本で読んだりして今の中高生はそんななのか、とか、いやいや自分のときだってスタイルの違いはあれどそうだったような気もする。ともかくそういったダイナミックと、ともすればそれにのみこまれてしまいかねない高校生たちのある面での必死さ、が、なつかしいようなこわいような。

主人公はそんな学校生活を小手先でまわすイヤなヤツだったりします。

その一方、主人公はロケット造りに関わらざるをえなくなってしまうのですが(イタい事情が……)、そこではほんとうに自分たちで一からロケットを造り上げようと試みます。モデルロケットを飛ばしてみるとこから始まり、黒色火薬を作って、打ち上げる。数十メートルの飛距離だったのを固形燃料の工夫で数百メートルに延ばす。展開には無茶なところが(もちろん)ありますが、いくらかの失敗を経験しつつ、それでも一から始めたことを考えれば順調すぎるくらい順調に成長していきます。固形から液体へと形式を変え、また、第一宇宙速度を目指すために多段ロケットを、などと。

そうしてロケット造りを進めていきながらも、クラス運営もこなしていき、やがてあるところで二つのパートはからまりあっていきます。どのように、どうなっていくのか、は読んでいただくとして。

私はロケットとか宇宙とかに、ついこの間のはやぶさ帰還の話題でもって興味をもち、それから各種の二ュースを見るようになったり、本を読んだりし始めました。そのため事前に持っていた知識はそれほど深いものではないのですが、それでもロケットパートでの彼らの知識とか工夫とか、がんばりとかぶつかりとか、は、つい最近読んで知ったばかりの日本のロケット史と重なるように思え(もちろん重ねてあるのでしょう)、なんというか、じわじわというかぐつぐつというか、そういう気分をつのらせながら読み進めました。

技術的につっこんだ話、科学的な話というのは出てきません。ただし、彼らが今(つまり本文の中で)どうして苦労しているのか、何が壁になっているのか、何が必要とされるのかといったことにはほどほど把握でき、かつ、それほど説明的でない補足が入ります(ロケット素人の主人公といっしょに学べます)。もっとも、文脈からなんとなく推測できたり、詳しく分からなくても読み進めるのには影響ないような一部の固有名詞や技術的な用語については明確な説明がないこともあります――こういったものはそう多いわけではないので、検索でもして調べながら読み進めることをおすすめします。写真や図を見てこんなものなのかっていう程度でも。でも、この本を読む前にはやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語[rakuten](や現代萌衛星図鑑[rakuten]、あるいは最近出ている複数のはやぶさ本など)を読んで日本のロッケト技術がどのように発展してきたのかを知っておくとよりのめり込めると思います。

ぐっとくるところはいくつもあるのですが、個人的には四章のタイトルの「なつのロケット」でぐっときてしまいました。いや、まさに。もう、他にもいろんな仕込みがあって。まあ、その分、きれいにまとまり過ぎていると思えちゃったりしないでもないのですが、そんなことは問題になりません。がーっと一気に読んでしまいました。ふるえるように。

ちなちに新書「はやぶさ」は、新書でありながら涙腺を刺激する珍しい本です。実際のロケットの事情をよく知らないという方は、ほうかごのロケッティアを読んだ後であっても一読されるとよいと思います。逆に、私と同じように最近になって人工衛星や探査機やロケットに興味を持ったとか、はやぶさの映像を見てワクワクしてたという人には「ほうかごのロケッティア」をおすすめできると思います。