夏のくじら

図書館戦争別冊IIといっしょに買ってきた、大崎梢さんの新刊夏のくじら夏のくじら[rakuten]を読み終えた。

高知よさこい祭りを舞台にした物語で、まさにこの週末に読むための一冊…… というのは、昨日ようやくページを繰り始めてから知った。ちょうど今やっているだな。

東京で育ち、高知は田舎。中学の頃までは夏休みになると高知にやられていた主人公篤史。人付き合いが苦手なために無愛想にもなりがちで、かつて一度だけ、高知での最後の夏に従兄弟に誘われるまま踊り子として参加したよさこい祭りでも無愛想ぶりを発揮してしまう。高知はそれっきり。高知にも祭りにも良い思い出はない。そんな彼が高校を卒業し進学したのは高知の大学だった。高知で久しぶりに合う従兄弟は、常になく熱心によさこい祭りへの参加を進める。訊けば町内会チームの再結成だと言う。

最初から最後までよさこい祭りを舞台にした物語だった。

今年高知に来たばかりでもあり、決して取っ付きやすくはない人柄のこともあって、さまざまな想いを抱いて鯨井町チームを立ち上げた人々の中へ、従兄弟の押切と惰性に任せて及び腰で参加してしまった主人公がいかに過ごすのかが描かれる。人と出会い、ぶつかり、厳しい練習を経験し、やがてその熱狂に重なっていく、その一方で彼にはどうしても果たさなければならないことがあって……。

よさこい祭りというのは名称くらいはもちろん知っていたけれど、何年かに一度、ニュース番組などで映像をちらと見る程度だったから、チームによってはプロの振り付けやプロの衣装を手配しているうえに、すべてが持ち出しでの参加だということや、チーム自体は基本的に毎年結成と解散を繰り返していること、演舞の順番は開場ごとに到着順で決まること、など、すべて知らなかった。いくらかよさこい祭りそのものに興味を持ちつつ読み進めることができた。

物語の本筋は面白かった。まずまず滑らかに進行していると思ったし、かといって一本調子でもなく。ただ、最初から最後まで祭りの中にすっぽりはいっているので、全編日常からは距離を置いたところでの展開であったことで、少々起伏に欠けるように感じた。

祭り、チーム、体育会系、縦横のつながり、といった非日常の中で描かれる、個々人の営みといった趣きもあったとは思うし、そういう舞い上がり、浮き上がりつつある中で、あるところではしっかりと地に足をつけてい振る舞う様子に憧れを感じたりもするのだが、何かもうひとひねりあり得たのではないかという気もしている。

人ごみがとても苦手なのでよさこい祭りを間近に観に行くなんてことはこれからもないと思うが、一夏ごとに生まれかわり、新たな交流を易く受け入れつつ、ある形を保ち継続されるという、単にがちゃがちゃ騒ぎ踊るだけという自分の中でのイメージとは違った様態であるのを知れたのは良かった。ちょっと身近になった。

最後に、カバーを付けたまま読んだ人はカバーを外してみましょう(実は、カバーを外して読んでいるところを見かけた奥さんに可愛い本だねと言われて気付いた)。