地震の日本史
縄文時代から現代にかけて起きた大きな地震の記録や分析を淡々と挙げていくという内容。
古い時代については遺跡の中で液状化現象の痕跡が見付かって、その際、どういう地層をつきやぶっているからこの頃だろうといった話題が主。活断層を調査することで対応付けができるんだそうだ。もう少し技術的につっこんだところが書いてあるとさらに興味深い展開になりそうなところだが、残念ながらそういう記述はない(もっとも、それを記述するページがなさそうではある)。
残っている記録が多くなるほど(現代に近いほど)詳しい情報が得られるのはもちろんなのだけど、そうすると被害規模の話題が増えてきて、地震そのもの、津波そのものについての描写が少なくなるようだった。描写があっても高さとか量とかの話になる。まあ、表に出てくるものについては、ということだろうとも思うのだけど。
古い時代のほうが現象そのものについての描写がある意味生々しい。一番印象に残ったのは津波を指して、海を傾けたように水がやってきたというようなもの(正確な記述は今確認できない)で、津波のときの水の動きというのはまさにそういうものだったよなという少々あやふやな知識とマッチするというのもあるのだけど、おしよせる水の質量感というか、そういうのにドキドキした。
追い打ちをかけるかのように連続して起きる地震だとか五度も六度もやってくる津波だとか、その度に重なる被害に加え、二次的に起きる火災とか、あるいは堤防が決壊した上での津波だとか、液状化現象による噴砂の影響で水を得られなかい状況になっていたりとか、物語のようなことが本当に起きているというのが、ごく淡々と書かれているなかですごくおそろしく感じられた。感じられたというか、おそろしい。
あるいは、地盤がずるっと数メートルも水平移動をしてしまうというようなことがあって、その跡としておかしな形になった畦道が残っていたりもするらしい。あるいは、遺跡の中で、当時の地面にうたれていた杭が上下に切れた状態で見付かっていたりもするそうだ。近い時代でも田んぼのまん中から鎌倉時代の大きな木の柱が突然にょっきと出てきたりなんていうことがあったとかで、これなどは写真が載っているのだけど、シンプルにびっくりする。
関東大震災でも火による被害があったであろうことは想像がつくが、実際の様子は想像のおよぶものではなかったようだ。これは知っている人も多いのかもしれないが、炎の嵐がふきあれるような状態だったらしい。火事、火災といった話を通りこしている。何もない広場で数百人が亡くなったなどということもあったんだそうだ。
ついつい凄惨な話が印象に残るのだが、全体としては報告書、あるいはラジオの交通情報のようなトーンである。地層や断層の分析や解析の内容をいちいち取り上げていくのが主幹で、付加情報として被害のことや政治事情に触れられる。さらにそれにの間には地震と鯰の組み合わせが確認された最古の記録についてだとか、数年前に話題になった稲むらの火のモデルになった地震のことなんかも入っている。後者についてはマスコミなんかでよく流れた「昔話」的な話なんかよりも、ずっと大変な状況だったということだが。
淡々としたトーンがむしろいつでもどこでも地震という現実をより生々しく表しているように感じさせるところがあるように思うのだが、ちょっとひいて見てみるとやや間延びしているかもしれない。また、たとえば断層が右横にずれているといった記述があったりして、それがいったいどういう状況なのかいまひとつつかみがたい。何メートルずれたというような記述があるので雰囲気は分かるのだけど……。などと思いつつも、なんだかんだと読んでしまう本でもある。ちょっとコワい本。