死せる魔女がゆく

キム・ハリスン著、月岡小穂訳の死せる魔女がゆく 上 [魔女探偵レイチェル] (ハヤカワ文庫FT)死せる魔女がゆく(上)[rakuten]死せる魔女がゆく 下 [魔女探偵レイチェル] (ハヤカワ文庫FT)(下)[rakuten]を読んだ。久しぶりのハヤカワ文庫。

舞台は現代のアメリカで、ただし、ある時点で人口は半減、その分、人以外の勢力が大きくなってきている。ある街なんぞは人以外のものとなっている。とはいっても、おどろおどろしい廃虚が連なるというようなものではなくて、反目、疑い、恐怖、などありつつも、(いやおうなく)共存しようとする社会でもある。科学も魔法もある。

主人公は人外サイドの警察的組織に属していた若い魔女。彼女が組織を辞め、そのことにより組織に追われる身となるとこから始まる。なぜ追われるかというと契約違反で、なぜ辞めたかというと正当な評価が得られないから。

ともかく違約金を払うことで追ってから解放されることを求め、金をかせぐためにおおもの犯罪者を追いつめるネタをとろうとするのだが——

主人公が置かれた境遇に謎があるのにはすぐに気付く。辞める気になるほど評価されないのはまだしも、執拗に命をねらわれ続けること、パートナーの吸血鬼が不相応に守ろうとする姿勢、など。あと、いくつかはストーリーが進むに従って出てくる。が、それらの謎には回答が出てこない。シリーズもののようで、続きが翻訳されれば明らかになるのだろう。きっと。

そんなわけで、導入編という位置付けになるであろう今回のお話だけではなんとも評価しづらいのだけれども、印象としてはやや薄い。どうも主人公の行動が短絡的でtry & errorを続ければなんとかなると信じているよう。それでいて魔法の腕前はなかなかのもの、という、そこら辺のアンバランスさは、主人公自身の若さのためともとれなくはないが、古びたピンボールの玉を見ているような気分にもなる。

主人公の言動はどうにもとってつけた感があるのだけど、パートナーの吸血鬼のそれはもう少しマイルドでむしろ入りこみやすい。部分的に細く描けているのだが、全体的には粗さが目立ってしまう。ストーリー展開がおおざっぱなのを飲み込むとするなら、もうちょっとそこら辺のバランスがとれていればなって思う。

あと、なんていうか男を見れば惹かれてしまうという、常時発情期のような主人行の内面描写にけっこうな分量が割かれているのだが、これがどうにも冷めてしまう。ホレっぽいというようなのではなくて、わりと具体的に想像してたりもする。姿形にばかりとらわれるのもやや安易だし(いや外見は重要だと思うけど)。巻末の解説を読むと、もともとそういう線をねらったところもあるようで、そう言われると「なるほどね」と思える感じではある。

魔法のシステムについては明確な描写はないが、異世界から何かをひき入れるような種類のものがよく出てくる。それ以外のものもあるっぽい。ただ、魔法の影響をキャンセルするためには塩水を使うようで、この辺からすると呪いとかそっち側の雰囲気もある。

続きが出て謎の部分が堀り下げられるようなら、あるいは面白いところも出てくるかなっていう期待は少しある。が、続き、出るかなあ……。