「船上にて」を読み終えた

先日からの続きで船上にて (光文社文庫)船上にて[rakuten]を読み終えた。

五人の登場人物の間での八回の手紙のやりとりがあり、そのうちの一人が死に、一人が殺された。さて誰が死に誰が殺されたのかという問いに挑む「かさねことのは」なんかが、ミステリを読みなれた人にはぐっとくるのかな? 私はそれらよりも「優しい水」と「手紙嫌い」にぐっときた。

前者は抜き差しならない状況に追いまれた女性の独白からなる。とてもシリアスな状態を軽妙に描くというのにひきこまれる、不思議な感覚が面白い。かといってすっぽぬけたような描写にはならないからすごいなあ。

後者はいくらかキャラクタ寄りにみせつつも、どこかやっぱり意地悪を忘れない。だけれどもキャラクタの枠からもはみ出さない、そんな感じ。手紙が嫌いで嫌いでたまらない主人公が、どうしても手紙を書かなければならなくなってしまう。そんな中、いったいどうしてそんなに嫌いなの? と原因を探そうとしたところから動き出す。オチに向けてすいこまれるような展開がもちろん見物だけど、手紙のダメさをとうとうと語るシーンもすてがたい。