海神の晩餐

若竹七海さんの海神の晩餐 (光文社文庫)海神の晩餐[rakuten]を読み終えた。

舞台が氷川丸とあって、それなりに身近に感じつつ読み始めた。読み進めていくうちに、営業終了する前に一度くらいは船内を見ておけばよかったかな、とか、この本を読んだ後だからこそ今見てみたいものだ、とか、そいいったことを思った(あの船は今後どうなるのだっけ)。

物語は、沈んでしまったタイタニックから奇跡的に持ち出されたミステリ小説の原稿がきっかけになって始まる。主人公が友人から買い取り、その友人は見知らぬ日本人から受け取った。船に乗った後、その原稿を狙う者が現れる。また、船の上の人々の中には様々な問題を抱えている者もいる。これらが時に重なり合いながら10日間の旅を続けていく。

再現性の高い文章は相変わらずで、いったい何がトリガーになるのか、読み始めるとすぐに舞台に入りこんでしまう。登場するのは様々にクセのある人々で、軽妙なタッチで話が進む。しかし、そこには物悲しさを伴う、暗い側面があるのであって、そうした、人々の様々な面が流れ込むようにして物語のラストへとつながっていくようであった。つい溜息を吐いた。