作中作のある小説

若竹七海さんの「死んでも治らない」と「名探偵は密航中」を読んで、加納朋子さんの「ななつのこ」にとりかかった。

死んでも治らない (光文社文庫)死んでも治らない[rakuten]は、ある事情から退職した刑事が実体験をもとにして間抜けな犯罪者の間抜けぶりをネタにした本を執筆・出版したことが間抜け達に付け狙われることになってしまい…… というストーリー。全体的にはコミカルな雰囲気なんだけれど、ところどころに翳がある。

いくつかの短編の間々に一本の別のストーリーを分割して配置するという構成になっているのに気付いたのは一本目を読み終えて、つまり分割後のストーリーを二つばかり読んだ後だった。まとまった時間をとれないときに短編集っぽいからと目次を見ずに読み始め、最終の短編一本すら読み切らずに間をあけることになってしまったため、その構造に気付いたときには手遅れで(えっつながってるの!? とかなった)、かといって最初から読み直すのもなあとそのまま読み終えた。そんなこともありつつもけっこう楽しめたので、せっかくなので時間をおいてまた読んでみようと思っている。

名探偵は密航中 (光文社文庫)名探偵は密航中[rakuten]では、やっかいばらいに豪華客船の旅においやられ、おまけにその道中の様子を旅行記にまとめることを命じられたある人物と、彼が乗ったのと同じ船の乗客たちの間に起こるミステリーが解決されたりされなかったりするというお話。

これも短編の間々に旅行記が挟まれるという構成になっている。印象は「死んでも〜」よりもこちらのほうが明るいように思うのだけど、個々のストーリーはこちらのほうが重いような気がする。わりと黒い。「死んでも〜」は登場人物からして元刑事だとか彼が現職だったときに付き合いのあった人々だとかなのに対し、こちらは一般の人々が主な登場人物であるためストーリーの中にあるギャップを感じるところが大きいのかもしれない。

両作ともコミカルになりきれない主人公の可愛さ、あるいは何か共感できそうな苦みが魅力的に思える(かたやおやじ、かたや女子大生、なのだが)。それと、この種の構造では、やはり何かオチが用意されているものなのだろうが、両作ともにそれぞれのオチがあって楽しめた。

まだ読みかけのななつのこ (創元推理文庫)ななつのこ[rakuten]は、「ななつのこ」というタイトルの短編集を読んだ主人公が、それと似たような、あるいは類推されるような物事に遭遇したところから、作中作のほうの「ななつのこ」の著者にそんなことに触れた内容のファンレターを送ってみたところ、回答ともいえる内容を添えた丁寧な返事が届く。そしてそんなことを繰り返すうちに…… どうなるのか、ならないのか、それは読んでのお楽しみ、という状態。

ま、そんなわけで、この本では都合二冊分のストーリーを楽しめることになる。もっとも作中作のほうは分量面でコンパクトにならざるを得ないわけだが。

内容はふんわりとしたやさしい雰囲気ものが多く、かつ、いくらかコミカルな模様が綴られてもいる。北村薫さんの円紫師匠シリーズにちょっと感じが似ている。巻数を重ねている分だけ円紫師匠シリーズのほうが重めではあるように思うけど。さて、この本のオチはどうなるのか、作中作のオチはどうなっているのか、実に楽しみである。

追記(2007-02-04): 「ななつのこ」の作中作の「ななつのこ」をもとにした絵本がななつのこものがたりななつのこものがたり[rakuten]として出版されているみたい。