神は沈黙せず(上)(下)

山本弘さんの神は沈黙せず〈上〉 (角川文庫)神は沈黙せず(上)[rakuten]神は沈黙せず〈下〉 (角川文庫)(下)[rakuten]を読み終えた。

現在よりももっとネットワークが発達し、社会基盤の重要な一部となった社会。ただ、政治その他の成熟は進まず依然大きな歪みをかかえたままの社会。大手宗教が信者をはなさない一方で、カルトの発生と終焉が繰り返され、UFOが目撃され、卦がなされる。そんな中、あるソフトウェアエンジニアがいわゆる「神」の正体に迫るというお話。

彼は宗教家ではなく、超能力者でもなく、オカルト体験をするわけでもない。もちろん霊能者でもない。まったく別の方向から偶然「神」に迫る道を見付けてしまう。実際、オカルト体験をしたり、ジャーナリストとしてカルトの取材をしたり、あるいは事件に巻き込まれたりするのは彼の妹の役割となっている。「神」に迫る推理は「啓示」のようなものとは無縁で、論理にたよるものであるが、その過程でいわゆる「超常現象」およびその増加が推理を推し進める。

こういうとなんだが、最終的なオチはについてはそう驚かない人が多いのではないかと思う。ただ、そこに至る過程はなかなか刺激的で面白い。過程を示すだけでなく、その中で十分に説明しきろうという姿勢も好しい。

宗教やSF、あるいはUFOだの幽霊だの超能力だのについての予備知識はほとんど必要ないと思う。まあ、ホントにまるっきり知らないと困るだろうけど、そういう人もそう多くはないだろう。もっとも、現実世界に対する批判の表明ともとれる表現もいくらかあるので、そういう部分についてはバックグラウンドが分かっていないと気付けないのかもしれない(私自身、それっぽいなと思いつつふわっとしたままのところがあったように思う)。

初出は2003年ということで、2010年前後を舞台としている作中の表現にひっかかるところがないではないが、それもそう大きくはなく、ある意味安心して読み進められた。