日本の税金

日本の税金 (岩波新書)日本の税金[rakuten]は税法や憲法という点から日本の税制とその問題点を解説した本である。教科書的な話の進め方をするのではなくて、よくある誤解や陥りがちなポイントなどを示してイメージしやすい形で分かりやすく説明している。全部で七つの章から構成されていて、一〜六章はそれぞれ所得税、法人税、消費税、相続税、関法税、地方税を扱っている。

本書によれば、現在の税制は合理性を欠いており、課税者にとって都合のよい解釈がなされているところが方々に見られるということになるようだ。その例としては、状況によって課税単位が個人になったり家になったりする点、相続税が取得税方式ではなく遺産税である点、ビールの税率が著しく高いままである点、……などが挙げられている。

相続税の話はけっこうすごい。日本の相続税は遺産を取得したことに対してかかるのではなくて、遺産そのものにかかる。その論拠は1957年の答申にあって以下のようなものだそうだ。

(1)人の死亡及び相続という事実は、被相続人が生前において受けた会社及び経済上の各種の要請に基く税制上の特典その他租税の回避等により蓄積した財産を把握し課税する最も良い機会であり、この機会にいわば所得税あるいは財産税の後払いとして課税するには、遺産額を課税標準とすることが当然の帰結となるとするものである。このように説明することを、英米の文献では「back tax theory」と呼んでいる。

(2)被相続人の遺産に対してその額に応じ累進税率で課することにより富の集中を抑制するという社会政策的な意味を有するものである。このような考え方を押し進めたものとして個人が生存中富の蓄積できるのは、その人の優れた経済的な手腕に対して社会から財産の管理運用を信託されたことの結果と見ることができるのであるが、その相続人は被相続人と同様に優れた経済的手腕を有するとは限らないから、相続の開始により被相続人から相続人に対して財産が移転する際に被相続人の遺産の一部は、当然社会に返環されるべきであるとするものである。

著者は(1)は「あまりに乱暴かつ自虐的な説明」だし、(2)は「所有権が憲法上保障されている法秩序の下では、全く合理性のない説明」だと述べている。

ビールの件については、日本の分類差等課税方式では高級酒からより多くの税をとろうというのが原則であるのに、ビールの税率が最も高く設定されている点を指摘している。つまり、ビールは一般に最高級酒と扱われていることになる。

本書の内容はこういう指摘ばかりではなくて、最初に言ったように、われわれが誤解しがちな点についても解説なされている。たとえば、いわゆる「103万円の壁」は税制上はすでにないということ、配遇者控除にまつわる「働かないことを税制上優遇する制度」や「内助の功」を税法上優遇したものだとする誤解。330万、900万、1800万を境に税負担が急激に上がるという誤解。また、配遇者控除の件にも関係がある所得の帰層の問題や基礎控除の意味なども説明されている。

「ホントは教えたくない資産運用のカラクリ」では投資に関する税制の歪みが詳細に説明されているが、本書ではもう少し一般的な、すべての人に関係のある、生活に密着した部分での歪みを解説している。たいへんコンパクトにまとめらているので、最初のとっかかりとしてもよいと思う。