プチ生活保護のススメ
プチ生活保護のススメ[rakuten]というタイトルからすると、なんとなく「生活保護」という制度をいかに使いたおすかを書いた本なのかと思ってしまうが、そういうものではなかった。この本では、どうすれば保護を受けられるのか、保護を受けられなかったらどうすればいいのか、保護を打ち切るとどういうことが起こるのかなど、幅広く、まじめに扱っている。内容は五章から構成されていて、一〜二章ではそもそも生活保護というのがどういう制度かを説明している。三〜四章はいわば生活保護申請-HOWTOで、五章はQ&A。
一〜二章では、たとえば、どういう世帯(「人」ではない)が保護を受けられるのかとか、生活保護を受けるとするとどれくらいの金額になるのかの計算方法などが書かれている。モデルケースとして夫38歳(身体障碍二級)、妻35歳、子10歳の世帯で23区内に住んでいる収入0の世帯が扱われていて、このケースだと月額270,970円となる。同じ計算方法で20〜30代の夫婦二人のケースを考えると198,070円になるようだ。生活保護を受けていると公共料金や医療費が減免される*1。保護を受けている間に収入があった場合には一部控除された後の収入が支給額から引かれるらしい(全額引かれるわけではない)。
三〜四章では、まず行くところ(社会福祉事務所)や申請までの手順、申請にあたって必要な要件や保護支給中の注意などが説明される。現在の住居の家賃が高すぎる場合や持ち家・マンションがある場合*2の一般的な対処。自動車、バイク、原付を持てるかどうか。金融資産はどれくらいまで認められるか(保護支給月額の半分程度、一人暮らしなら4万円程度とか)。
一通り目を通したところでは、特に注意しなくてはならない点が二つあるように思えた。一つは住居を失うと生活保護を受けて、再び自立するという点からはかなり不利になるということ。これは生活保護の対象が世帯であるため、たとえば親や知人宅に居候してしまうと、それがすなわち世帯とみなされてしまうからで、保護を受けられない可能性も出てくる。その上、保護を受けている間に家賃が高くなる方向での転居が認められない。またホームレスになってしまうと、どの地域の管轄であるかを明確にする根拠を失うことにつながり、お役所としても保護するのが難しくなるらしい。
もう一つは生活保護の申請にかかわるお役所の担当者(ケースワーカーと呼ばれる)は、必ずしも福祉の専門家でないということ。このために法的に適切とは言えない「指導」をすることがあったり、規則規則の一点張りになったりすることがあるようだ。この本によれば横浜市など一部には専門家があてられている場合もあるようだが、そういう自治体は多くはないらしい。ちなみに一人のケースワーカーが80〜100世帯を担当するという状況でもあるようで、それはもう大変なことだ。
その他、社会福祉協議会では短期小額無利子の融資を行っているなど、知っていて損のない情報もあった。また、実際に保護を受けている人へのインタビューがいくつか挿入されていて、これが実に興味深かった。電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫にテレビ、これらは今だ贅沢品らしい。さすがに処分をせまられることはないが故障したから買い直すということはできないか、かなり難しいということになる。あるいは通勤のための原付も認められないという状況もあるようで、そんな認識がなされるようではパソコンはおろか、まともな通信環境なんていくら必要であっても認められない可能性が高そうな気がしてくる。
いつの日かこういう知識が役に立つかもしれない(というか、そうなってしまったら最低限必要な知識となるだろう)し、自分以外の身のまわりの人のために役に立つかもしれない。ざっと目を通すのに一時間もあれば足りる本なので読んでおくとよいと思う(まずはこの本でも紹介されていた生活保護110番を見てみるとよいかも)。